打ち合わせの議事録は残っている。決まったことも書いてある。それなのに数ヶ月後、 「なんでこうしたんでしたっけ」に誰も答えられない。よくある話ですが、 原因は「議事録をちゃんと書かなかった」だけではなさそうです。
議事録に書いてあるのは「結論」だけ
議事録の役目は、その場にいなかった人に何が決まったかを伝えることです。だから書かれるのは 結論と担当と期限で、そこに至るまでの検討はほとんど残りません。会議の直後は、参加者全員が 理由を覚えているので、それで実際に困らないからです。
困るのは、覚えている人がいなくなってからです。担当が替わったとき、案件が半年続いたとき、 そして自分自身が別の案件を 3 本挟んだあとに戻ってきたとき。議事録は「あとで読む人」のために書かれていますが、あとで読む人が本当に知りたいのは 結論ではありません。結論は現物を見れば分かります。分からないのは、 なぜそれ以外ではなかったのか、です。
誰かがサボったから落ちるわけじゃない
別々の力が、同じ向きに働いています。
- 要約するときに落ちる。「A 案で進める」は 1 行で書けますが、 「B 案を見送った理由」は数行かかります。短くまとめようとするほど、 先に削られるのは後者です。しかも削っても、その時点では誰も困りません。
- その場では自明だから、そもそも言葉にされない。前提が共有されている人たちの間では、理由はわざわざ口に出されません。 議事録に残らないのではなく、会議でも明示的には語られていないことがあります。 後から書き起こそうとしても、元の音声にすら入っていない。
- 却下した案は、記録の対象に入っていない。議事録は「決まったこと」を書く書式なので、 「検討したが選ばなかったもの」を書く欄がありません。欄が無いものは書かれません。
3 ヶ月後に効いてくるのは、理由のほう
結論だけが残っていると、次の 3 つが起きます。どれも、記録はあるのに記録が使えない状態です。
- 同じ議論をもう一度する。前に検討して見送った案が、 見送った前提ごと忘れられて再び出てくる。前回と同じ時間をかけて、 運が良ければ同じ結論に、運が悪ければ違う結論にたどり着く。
- 変更していいかどうかが判断できない。なぜそう決めたかが分からないと、変えたときに何が壊れるかも分かりません。 結果として、触らないほうが安全という判断だけが積み上がっていく。
- 「言った / 言わない」に決着がつかない。要約された 1 行では、当時どういう言い方で合意したかまでは確認できません。 相手のいる打ち合わせでは、ここがそのまま金額や納期の話になります。
よくある対処が、なぜ効かないか
この問題は昔からあるので、対処もだいたい決まっています。ただ、 どれも落ちる場所とは別のところを直しているので、期待したほど効きません。
1. 全文の文字起こしを残す
情報は失われなくなります。しかし探せないものは読まれません。 2 時間の会議は 2 万字を超えます。3 ヶ月前の「なぜ」を知りたい人が、 どの会議のどのあたりかも分からないまま 2 万字を読み返すことは、まず起きません。 残すことと、取り出せることは別の問題です。
2. 議事録テンプレに「決定理由」欄を作る
正しい方向ですが、負荷のかかる場所が悪い。書く人は会議の直後、 いちばん疲れていて、いちばん「みんな分かっているから要らないだろう」と思っている タイミングで、その欄を埋めることになります。数回は埋まり、そのうち空欄になり、 最後には欄ごと消えます。続かなかった理由は意志ではなく、置き場所です。
3. 録画を残す
いちばん情報量が多く、いちばん使われない手段です。2 時間の録画から 30 秒を探す方法がありません。しかも録画は、見返すのに実時間がかかります。1 の文字起こしと同じ問題が、 もっと重い形で出ます。
4. チャットに決定を書いて貼る
その瞬間は共有できます。ただしチャットは流れる場所です。3 ヶ月後に検索して その投稿を見つけられたとしても、当時の前提はその投稿に付いてきません。 決定だけが単体で出てきて、周りの文脈は別のスレッドに散っている。 結局「なぜ」には答えられません。
4 つに共通しているのは、記録を増やしているが、 取り出し方を変えていないことです。落ちているのは情報量ではなく、 後から必要なものを引き当てる経路のほうです。
残すために要るもの
結論と同時に、理由が記録されていること。あとから理由だけを足すのは、ほぼ不可能です。 当事者の記憶が薄れる速さは、記録を整理する速さより常に速いので、 書くなら決まった直後しかありません。
実際の発言に戻れること。要約には、要約した人の解釈が必ず入ります。確認に使えるのは、言われたままの言葉だけです。
会議をまたいで「いまの正」が分かること。決定は後の会議で覆ります。古い決定と新しい決定が同じ重さで並んでいると、 記録はかえって判断を鈍らせます。
そして探す前に、向こうから出てくること。人は「たぶんどこかに書いてある」ものを探しません。 必要な場面で目に入るところに置かれていて初めて、記録は読まれます。
どれか 1 つでも欠けると、記録は「あるのに使えない」側に戻ります。
記録の単位を、会議からプロジェクトへ
会議ごとのファイルを残すだけでは、ここまでのどれも満たすのが難しくなります。1 本のファイルの中では、前の会議で決まったことが後の会議で置き換わったことを 表せないからです。会議を横断して見るにも、ファイルを順に開いていくことになります。
必要なのは、会議ごとの記録ではなく、プロジェクトに積み上がっていく台帳です。 単位が会議からプロジェクトに変わると、上のどれも成立しうる形になります。 決定は案件に属し、覆れば置き換わり、未解決のものは次の打ち合わせの前に見える。
これは会議の種類を選びません。仕様を決める打ち合わせでも、 条件を詰める商談でも、起きていることは同じです。
RE:LOGUE は、この考え方で作っています。会話から決定・タスク・リスクを抽出し、 それぞれに「なぜそう判定したか」と根拠になった実際の発言を付けたうえで、 承認したものだけをプロジェクトの台帳に積み上げます。仕事ごとの使い方は用途から探すにまとめています。