「終わりました」が、別の仕事に刺さっていた

朝会で「終わりました」と言うとき、たいていの人は、何が終わったのかまでは言わないじゃないですか。

それで困らないんですよね。前の週から同じ話をしていて、昨日も同じ人が同じ話をしていて、 聞いている側の頭には「この人はいまあれをやっている」が入っているので、主語も目的語も落ちた 一言で普通に通じてしまう。会議の記録を機械に読ませるまでは、私もそれで何の問題もないと思っていました。

貼り先の 88% が違っていた

完了報告を拾って、対応する項目を「終わった」に変える仕組みを作ったんです。動かして、出てきた 候補を 1 件ずつ人の目で確かめていったら、88% が関係のない項目に貼られていました。

9 割弱ですよ。貼り先が合っていたのは 25 件中 3 件で、最初は数え方を間違えたのかと思って もう一度数えたんですが、2 回目も同じでした。

報告のほうは、全部本物だった

てっきり、拾い方が雑で、雑談とか予定の話とか、「終わった」でない発言まで拾っているんだろうと 思っていたんですが、違いました。拾われた発言はどれも本物の完了報告で、会議で実際にそう 言われていましたし、言った人も日付も合っていて、壊れていたのは貼る先だけだったんです。

たとえば「名簿の確認が終わりました」という報告を、「会場の下見」の完了として貼る、みたいな ものが並んでいて、その取り違えがどれも似た形をしているんですよね。前の週に一度だけ話題に出た 項目とか、名前が少しだけ似ている項目とか、同じ人が担当している別の項目とか。どれも会議の どこかには出てきた言葉で、まったく無関係なものが選ばれることはほとんどありませんでした。

報告も実在するし、貼られた項目も実在するのに、そのあいだの関係だけが無い、という 変な状態です。

では、人はなぜ間違えないのか

ここで手が止まりました。同じ会議に出ていた人間は誰も取り違えていないのに、機械だけが 9 割 外している。同じ音声を聞いて、同じ一覧を見ているはずなのに、何が違うんだろうと。

しばらく考えて、前提のほうが間違っていることに気づいたんです。人も取り違えているんですよ。

たとえば A さんが「例のやつ、終わりました」と言って、B さんが「お、下見まで行けたんですね」と 返すと、A さんが「いえ、名簿のほうです」と言い直して、B さんが「あ、そっちか」で終わる。 実際の会議なら 3 秒で済むやりとりです。訂正されて、直って、次の人の番になるので、取り違えた こと自体は誰の記憶にも残らないし、議事録にも書かれない。会議が終わったあとに残るのは、 直ったあとの認識だけなんですよね。

私は「人は間違えない」を前提に仕組みを作っていたんですが、実際には人も毎回間違えていて、 毎回その場で誰かに直されているだけで、機械の側にはその B さんがいなかった、というだけの話だったんです。

2 つの仕事を 1 つにまとめていた

作りを見直したら、ひとつの指示で 2 つのことを同時にやらせていました。「何が終わったかを見つける」 ことと、「それが手元のどれに当たるかを決める」ことを、1 回で。

人はこれを 2 回に分けているんですよね。まず「終わったらしい」とだけ受け取って、そのあとで 「で、どれのことだ?」と考える。分かれているから後半だけをその場で言い直せるし、さっきの B さんのように、他人が割り込んで直すこともできるわけです。

なので分けました。見つける側には手元の一覧をいっさい見せずに、聞こえたことをそのまま書かせて、 それが手元のどれに当たるかは、一覧を見る別の段で決める。そのうえで、どれにも当たらないと 判断したら捨てる。

この「捨てる」が効いたんです。以前は必ずどれかに貼る作りだったので、当たりが無いときほど 遠いものに貼られていて、しかも貼られたほうは勝手に完了になるので、次の会議ではもう話題にも 上がらなくなっていました。分けたあと、取り違えは 25 件中 22 件から、7 件中 2 件になっています。

それでも 57%

貼り先だけでなく、変化そのものも、変えた状態も全部合っている、という厳しい数え方をすると、 4% から 57% になりました。10 倍以上ではあるんですが、57% なんですよね。3 回に 1 回以上は、 まだどこかがずれています。

しかも二ヶ月後、別の場所で同じ形の穴が見つかりました。候補を絞る段がいつの間にか二重に なっていて、実在する項目への報告が、最終の判断に届く前に静かに落ちていたんです。落ちた 2 件の 近さは 0.379 と 0.402 で、人が読めば同じ話だと分かるものでした。

いまも、朝会では誰も主語を言いません。言わなくても通じるからで、隣で B さんが直してくれる かぎり、それは会議として正しい振る舞いなんですよね。