皆さんは、仕様書のとおりに作って、先方の確認も何回も通って、さあ使ってもらおうという段に なってから「なんか、思ってたのと違いますね」と言われたこと、ありますか。
私はあります。受託で経理の人が使う小さな管理画面を作っていたときのことで、 あのときは本当に、どこを直せばいいのか見当もつかなかったんですよね。
仕様書も確認も、ちゃんとしていた
最初のヒアリングには PM だけが出ていて、私はそこでまとめてもらった仕様書を受け取って 作る係だったんですが、この仕様書がまたよくできていて、14 ページくらいの中に 画面ごとの項目も並び順も、データが 0 件のときに何を出すかまで書いてあるんです。 受け取る側からすると、これ以上ありがたいものはなかなか無いですよね。
問題になったのは、締め日の時点で承認が終わっていない申請を一覧で出す画面です。 仕様書には、未承認のものを申請日の古い順に並べて上に件数を出す、というくらいのことが 書いてあって、迷うところもないので、そのとおりに作りました。
作っている途中で、先方の窓口の方と確認の打ち合わせも 4 回やっています。 仕様書を横に開いて、未承認だけ出てますね、古い順ですね、件数も上に出てますね、と 画面を一つずつ見せていくよくあるやり方で、毎回最後に「これで大丈夫です」と言ってもらって、 議事録に「確認済み」と書いて終わる。順調な案件だと思っていました (この時点の私は、自分の作ったものに落ち度があるとは露ほども思っていません)。
「思ってたのと違いますね」
実際にこの画面を使う経理の担当の方に触ってもらえたのは、ヒアリングから 3 ヶ月くらい 経ってからで、ちょうど締め日の数日前だったので、本番に近いデータを入れて見てもらうことに なりました。
その方はしばらく黙って画面をスクロールしていたんですが、やがて少し困った顔で、 「うーん、ちょっと思ってたのと違いますね」と言うんです。どのあたりでしょう、と聞いても、 「どこ、っていうか……なんだろう」と、向こうもうまく言葉にならない様子でした。
(いや、4 回確認しましたよね……とは、もちろん言えません。)
言われた側としては、これが一番困るんですよね。仕様書のとおりに作っているし、 確認も通っているので、どこが違うのかの手がかりがこちらには一つも無い。 結局しばらく、二人で黙って画面を眺めることになりました。
知りたかったのは「誰のところで止まっているか」
それでも 10 分くらい話しているうちに、だんだん見えてきました。締めの前になると、 その方は承認が止まっている人のところへ一人ずつ声をかけて回っていて、だから知りたいのは、 未承認が何件あるかよりも、誰のところで止まっているかなんだそうです。
そう言われて画面を見直すと、申請者も申請日も金額も並んでいるのに、承認者の列が無いんですよ。 なぜ無いのかといえば仕様書に無かったからで、本当にそれ以上の理由はありません。
戻って PM に、最初のヒアリングでそういう話は出ていたかと聞いてみたら、「あー、出てた出てた、 メモにもあるよ」とあっさり言われて、見せてもらうと、締めの前に止まっている人を探して回るのが 大変、という一文がちゃんと残っていました。
誰も手を抜いていないのに
じゃあ PM が悪いのかというと、話を聞くとそうでもないんですよね。人を探して回るのは業務の やり方の話で、画面としては未承認の一覧があれば足りるだろう、と判断して仕様書をまとめたそうで、 実際、一覧があるだけでも手間はだいぶ減ります。その判断自体は筋が通っていて、ただ、まとめる 途中で「誰のところで」という部分だけが抜けてしまった、ということなんです。
ヒアリングで聞いた話が仕様書になり、仕様書のとおりに画面ができて、その画面を仕様書と 照らして確認した。全員が、自分の手元にあるものに対してはちゃんと仕事をしているのに、 それでもこうなるんですよね。
そもそも、あの 4 回の確認って何をしていたんでしたっけ、と思い返してみると、やっていたのは 仕様書と画面の突き合わせです。私が仕様書の項目を指しながら画面を見せて、窓口の方がそれが 仕様書と合っているかを見る。このやり方だと、仕様書に書いていないことは、そもそも話に出てくる きっかけがありません。
窓口の方がヒアリングの話を覚えていたかどうかは分かりませんし、覚えていたとしても、目の前の 仕様書と画面がぴったり合っていたら「それとは別に」とはなかなか言い出せないと思うんです。 何回確認しても確かめられるのは「画面が仕様書どおりか」だけで、「仕様書がヒアリングどおりか」は、 結局一度も確かめていなかったんですよね。
直すのは 2 日、気づくのに 3 ヶ月
修正自体はあっけないもので、承認者の列を足して、承認者ごとにまとめて件数を出すようにした だけです。データはもともと持っていたので 2 日くらいで終わって、締め日にも間に合い、 担当の方はその画面を見ながら件数の多い人から順に連絡していったと聞いています。
3 ヶ月かけて作ったもののうち、ずれていたのは 2 日で直せる部分だけなのに、そこに気づくまでには 3 ヶ月かかっている、というのが、いまだにちょっと引っかかっています。
それ以来、確認の打ち合わせでは、いったん仕様書を閉じて「この画面を開いたら最初に何をしますか」と 使う人に話してもらってから、仕様書と照らすようにしています。それで全部防げるとは思っていませんが、 「思ってたのと違いますね」と言われたら、まずヒアリングのメモを開くようにはなりました。